熱海ホテル事情~チェーン系ホテル動向
- 中山 晴史
- 5月9日
- 読了時間: 4分
更新日:5月17日
かつて昭和の時代、「熱海のホテル」の名はテレビCMとともに広く知れ渡り、隆盛を極めていました。新幹線開通前は、特急列車で向かう新婚旅行の目的地として人気を集め、箱根や伊豆半島を含めた一帯は、一大温泉リゾート地と呼ぶにふさわしい賑わいを見せていました。しかし、バブル崩壊後、熱海は寂れた様子を呈し、新幹線の利便性ゆえに、気軽に旅情を楽しむには距離感が中途半端となり、その目的意識も薄れ、鬼怒川と並び廃墟となった温泉旅館が点在することで知られるようになりました。
ところが、ここ十数年の間に、大手チェーンの温泉ホテルや中国系ファンドの参入によって、熱海は再び活気を取り戻しました。インバウンド客はもちろんのこと、若いカップルたちの姿も目立つようになりました。私も中国系ファンドの事業に関わった経験がありますが、それ以上に、歴史ある名門ホテルなどが大手チェーンに買収されたことが、熱海の再生に大きく貢献していると言えるでしょう。伊藤園ホテルや大江戸温泉ホテルを中心に、近年人気の「オールインクルーシブ」スタイルが支持を集めています。ちょっと笑い話的ですが、彼らは熱海に着いてから駅の観光案内所の前で「スマホ」でホテルを探すそうです。それゆえ、ブッフェの食事の施設が売れるわけです(笑)。

これらの大手チェーンは、複数のホテルを傘下に置くことによるシナジー効果を巧みに活用しています。例えば、三つのホテルの調理部門を一箇所に統合することで効率化を図っています。一晩に同じ人物が複数のホテルに宿泊することはないため、同じメニューを提供しても問題は生じません。このように、効率化とさらにはキャッシュレス化も着実に進んでいます。現金のやり取りが不要なビジネスの快適さは、経験者であれば容易に想像できるでしょう。しかし、このようなチェーン化の流れの中でも、長年のノウハウをもってしても運営が難しいと考えられるホテルが存在します。
それが、昭和の時代には馴染み深かった巨大ホテルたち、ニューハトヤホテル、ホテル後楽園、ホテルニューアカオなどです。ハトヤとニューアカオは、客室数が350室を超える規模を誇ります。350室のビジネスホテルやシティホテルでさえ運営は容易ではありませんが、温泉ホテルとなるとその難易度はさらに増します。ホテル業界に身を置く者として、個人的にはあまり積極的に宿泊してみようとは、正直、思いませんでした。しかし、ホテルニューアカオがマイステイズの運営に移管されたこともあり、先日、GWの最終日に初めて宿泊してみました。
移管前にもある程度の改装は施されたようで、エントランスなど新しく感じられる部分もありましたが、やはりそこは昭和のバブル期に建てられた巨大ホテルです。施設のあまりの広大さに、さすがのファンド系でも資金が追いつかないのか、立ち入り禁止のドアや部屋、通行止めの階段や通路などが散見されました。もう少し、品よく「立ち入り禁止」にできないものか。まるで工事現場。しかし、ロケーションは本当に「素晴らしい」の一言です。ハワイにあったホテルニューオータニ系のカイマナビーチホテルは、ワイキキの中心部から離れているがゆえに、ワイキキの夜景を一望できるという魅力がありました。同様に、ニューアカオからも熱海の美しい夜景を堪能できます。展望台からの眺めも素晴らしいのですが、何と言っても眺望露天風呂は格別です。初島への観光船を眺めながら、あるいは運が良ければ花火も見られるかもしれません。現在のコストでこの規模の施設を建設しようとすれば、一体どれほどの費用がかかるのでしょうか。
この素晴らしいロケーションは宿泊料金に見合う価値があると感じましたが、残念な点は食事会場までの距離が遠すぎることです。東京のホテルニューオータニの広さを知っていれば、それほど大きいとは感じないかもしれませんが、私が宿泊した棟から食事会場までは、なんと四つのエレベーターを乗り継ぐ必要がありました。GW最終日だったためか、ブッフェで待たされることはありませんでしたし、朝食の和食メニューは満足できるものでしたが、夕食の刺身などには改善の余地があるように感じました。ブッフェ会場の広さは、ハプナ(品川プリンスホテル)並み、あるいはそれ以上で、少々驚きました。食事に関しては、大江戸温泉ホテルの方が努力しているかもしれません。もう一度宿泊したいかと問われると、正直なところ、少し悩みます。まあ、もう少し安価であれば可能性は高いと思います。
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